無垢の予兆

言葉の出枯らし

チェリーコーラとマシュマロアイス

約1週間のポートランドでのホームステイ。

私は早くも一日目で出鼻を挫かれることとなった(前回の記事参照)。

 

朝ご飯はホストファザーが作ってくれた。

一口食べて思わず顔をしかめた。何だこれは。鳥の餌か?

恐らくオートミールというやつなのだろう。

牛乳も日本産のものよりかなり味が薄く感じた。牛乳味の水という感じだ。

私の般若の様な顔を見て、ファザーは新しくワッフルを焼いてくれた。こちらはとても美味しかった。彼の優しさが身に染みた。

続いて私の昼食も作っておいてくれた。サンドウィッチと、スナックと、果物。これぞアメリカの昼食という感じで感動した。

 

昼間は私達生徒には授業があるのだ(ほとんど授業らしいことはしなかったけれど)。コーディネーターの先生がペンションを貸し切っていて(先生の別荘だったかも?)、そこでお金の種類を学んだり、英作文を書いたりした。

ペンションは結構広く、大きなソファが4つあったり、小さなジャグジー付きのプールがあったりした。

 

近くにもっと広い屋外プールがあり、私達はそこで泳いだ。

貸し切りで誰も注意する人がいないので、バク宙や前宙の技で水に飛び込んできゃーきゃー言っていた。

疲れて寝た後はウェルカムパーティー。ホストファミリー達が料理やケーキを持ち寄って来てくれた。

 

アメリカの子供たちが水風船で遊び始めたので、一緒に遊んだ。割れてびしょ濡れになったけれど、日本ではやったことが無い遊びで楽しかった。

 

友達や先生に会えたことで少し気持ちに余裕ができた。

私は家に帰ると、ホストシスターのホリーに勇気を出して英語で「バスルーム使っていい?」と聞いた。これだけでも勇気がいることだったのだ。今考えると笑える。もしかしたらすごい丁寧語で言っていたかもしれない。「小生、お風呂に入ってもよろしいでしょうか?」みたいに。

ホリーは笑うでもなく元気に「Sure!」と言ってくれた。

 

それにしてもここの家族はバスルームを使っている気配があまり感じられない。毎日シャワーを使っている私の方が変なのではないかという気になってくる。

同級生男子の家のホストブラザーで、コーディネーターの女性の息子のロン(私達が勝手にそう呼んでいた。ロン・ウィーズリーに似ていたから)は、毎日同じTシャツを着ていた。

気にしないお国柄なのかもしれない。

 

一日目は辛かったが、それ以降は割と平穏に過ごせた。

家でBBQをしたり、ポップコーンを作って家族皆で映画を観たりした。私はウォレスとグルミットを頼んだ。英語が無くても面白いから。マザーは「久々に観たけど、結構面白いわね」と言っていた。

シスターとマザーと一緒にボーリングにも行った。大きなチョコミントアイスも食べた。彼女達も私に気を使ってくれているんだと分かり、感謝した。

車の中でマイケル・ジャクソンが流れると、マザーは大声で歌い出した。「いつもこうなのよ!」とホリーは呆れ顔で私に「クレイジー」と頭の上で指をくるくるさせた。

次に流れた曲がとても気になり、「これは誰?」と聞くと「JOJOだよ」と教えてくれた。

ホリーは他にもCDを貸してくれた。ブリトニー・スピアーズや、ジェニファー・ロペス等の女性シンガーが多かった。

私がBUMP OF CHICKENのCDを流すと、今度はホリーが「これは誰?」と聞いてきた。

BUMP OF CHICKEN」と言うと、ホリーはゲラゲラ笑いだした。よく考えれば、バンド名を直訳すると「鳥肌」だ。

 

ホリーがアイスクリームを持ってきてくれたので食べた。チョコにマシュマロが入っていた。マシュマロ入りアイスはその時初めて食べたので衝撃だった。あとチェリーコーラというさくらんぼ味のコーラ。あれにも感動した。ちょっとドクターペッパーみたいな味なのだが、かなり美味しい。日本に帰ってからも「チェリーコーラはまじでウマい」を連呼したらそれだけで笑われるようになった。

 

アメリカ人は日本の寿司に感動し、日本人の私はチェリーコーラに感銘を受ける。Win-Winの関係である。

 

向こうの家族はとても放任主義だ。

他所の国から来ようが、特別扱いしたり、お客様扱いしたりしない。

何か手伝って欲しい時は遠慮なく言ってくるし(洗濯物畳みや皿洗いなど)、その他はご自由にという感じだ。本当の家族に接するみたいだ。

 

私も遠慮なくベッドでだらだらしたりする。

地元の家には一度も電話を掛けなかった。国際電話は高いし、何より母の声を聞いたらまた挫けてしまうかもしれないと思った。この件には母から後で散々嫌味を言われた。

 

 

ベッドで昼寝をしていた私をホリーが起こしてきた。

会わせたい人達がいるという。寝ぼけたままリビングに行くと、たくさんの若者達が集まっていてギョッとした。

男女7人くらいで、全部ホリーの友達だそうだ。

「え…そういうことは事前に言ってよ…」と思ったが、もしかしたら聞き逃していたのかもしれない。

ていうか、これは何のパーティーなのだ?

とりあえず庭に出て、イスに座ってお喋りを聞いていた。

坊主頭の青年が何故か私をいたく気に入ってくれ、様々な質問をぶつけてきた。こちとらリスニングも英会話もままならないんだぞ。しかも寝起きだぞ。

「How old are you?!」という質問にも咄嗟に言葉が出ず、え、あ、…とカオナシ状態になってしまい、赤面した。

「フ、フォーティーン…」と答えると「Oh!So Cute!!」と坊主頭はベイビーちゃんに話しかけるように言ってきた。たしかに語学力はベイビーちゃんだが。

 

するとどこからか浜崎あゆみの曲が流れてきた。

耳を疑った。 次に宇多田ヒカルの曲が流れてきた。

「僕らは日本の歌が大好きなのさ!!J-POP最高!」と坊主頭が嬉しそうに言う。

 

リビングに移動すると、テレビでセーラームーンが流れていた。

目を疑った。

どうやらOTAKUパーティーに招かれていたらしい。

横にいたイケメンが、魅惑的な笑みを浮かべながら私にカプセルガチャをくれた。開けると犬夜叉のフィギュアが入っていた。

 

テレビの前で坊主頭が「ムーンクリスタルパワー!メーイク!アーップ!」とクルクル廻ってこちらをチラチラ見ている。私を笑かそうとしてくれているのだ。

私は眠気も覚め、だんだんとこの状況が可笑しくなってきて、ゲラゲラ笑った。

坊主がセーラームーンの舞を踊り、私が、皆が笑う。

外国人の中で、いや、私だけが外国人で、人見知りの私がこの場で笑えているということがとても大きな一歩だったように思う。

 

 

つづく